【市民の声】創業130年の老舗の割烹料理屋「能登忠」 割烹料理屋「能登忠」女将 田幸久子さん(横町)
四季の料理を通して、料理の思いや意味を伝える老舗
能登忠さんは、明治、大正、昭和と須坂の製糸業の繁栄と衰退や様々な歴史とともに一緒に歩んできました。格式張っていると思われがちな懐石料理に親しんでもらう工夫を凝らし、気軽に楽しんでもらう努力を重ねています。 女将さんである田幸久子さんにお話しをお聞きしました。
須坂に嫁ぐきっかけ
田幸さんは、元々警察関係の仕事をされており、当時の上司の紹介を機に能登忠4代目当主の田幸 新一さんと出会い結婚し女将さんになりました。「私は、須坂の事を知らなかったので、地域の方やお客さまにお話しをお聞きし学んでおります。まだまだ知らないことがたくさんあります。学びは尽きないと思っています」とおっしゃいます。
料理に込める、ささやかな思い
「お客様が予約していただく時は、できるだけ多くの情報を聞き、要望によって料理を工夫しています。例えば、ご結納でしたらエビの背中を丸くします。嫁ぎ先でお嫁さんが腰が曲がるまで長生きできるようにという意味が込められています。その他に「よろこんぶ」という事で、こんぶで巻いたものを、その料理の中にお祝いをつくります。先代から受け継いだ教訓として、素材の持ち味を殺さず、活かすことを教えられました。靴を脱いだら揃えることが当たり前のように、今後も、学んだ事をコツコツ積み重ねていきたいと思います」
お客様の心を感じ取り、真正面から向き合う
「お客様が10組いれば、10通りの場合があります。」「その中でも、お客様がどのような状況なのか心で感じとらなければいけません。乾杯のタイミング、お食事中の笑い声、お食事の進み具合などから感じとり、料理の順番や、お声がけする言葉を選んだりします。」「想像力や広い引出しが必要で、これは経験でしか身に着けられないものです。中には、私が良かれと思っても、お客様からお叱りを受けることもあります。」「お客様を悲しませることは、私がどんなに準備し、お気遣いしたとしても間違った事です。そのような事は、弁解せずに頭を下げ謝ります。」「お客様から学ばせていただけるところはたくさんあります。スタッフを見ていると、大変な経験をしている人は、人の気持ちを感じ取れるような気がします。」「お客様に対してプロである以上、失敗は許されないことですが、指摘していただくことは能登忠のためを思っていただけることですから、すべて教えと思い、学びだと思っています」
ご節句の意味を伝えたい
「日本には五つの節句があります。五節句にはそれぞれ大切な意味があります。例えば、五月の端午(たんご)の節句には、柏餅を食べます。柏は新芽が出るまで葉が落ちないことから、家系が絶えない縁起物とされたそうです。」「今の子ども達はそのような意味を知らない人が多いような気がします。それは、情報が多様化しすぎて、うまく伝わらなかったからだと思います。」「四季の料理を通して、料理の思いや意味をたくさんの方にお伝えし、文化の意味を実感することができ、人生が豊かになるお手伝いをしています」
今後について
「人が生まれてから亡くなるまで、人間模様として、お宮参り、五節句、結納、結婚、節目のお祝い、還暦、卒寿、米寿・・(葬儀)のように、様々なイベントがあります。そのような日本文化は、どこの国にもない独自の文化です。今後、その文化を大切にし日本文化のあり方を多くの方に、伝えていければと思います。」「私、個人としてはお墓に入るまで勉強だと思っています。だから70代、80代になっても、まだ知りたいことはたくさんあり、知らないことは山ほどあるからです」
冠婚葬祭とはなんだろう?私は女将さんの話を聞き調べてみました。「冠婚葬祭」は、元服・婚礼・葬儀・祖先の祭祀のことと出てきました。
個人的な解釈として、人が生まれてから死ぬまで、そして死んだ後も人のことを思い続けるための行事なのかなと感じました。大切な人を思い、特別な料理をゆっくりと味わいながらいただく。何故そのようなことが、この時代まで受け継がれているのでしょうか?そこには、今では忘れがちな大切なことで他者への思い。誇るべき日本文化。そして、それを繋ぐ方達の涙ぐましい努力が詰まっているからなのではないかと思いを馳せました。
田幸さんインタビューご協力いただきありがとうございました。
(2015年6月 地域おこし協力隊 和田)
(インタビューの内容は取材当時のものです。)
割烹料理屋「能登忠」
- 【住所】長野県須坂市大字須坂304
- 【電話番号】026-245-0053
- 【営業時間】昼は11時00分~14時00分。夜は17時00分~21時00分( ラストオーダーは20時30分)
- 【定休日】不定休
更新日:2025年02月20日