移住者の声 須坂市地域おこし協力隊 北 直樹の『須坂キラビト』vol.8

更新日:2024年03月26日

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椅子に座ってほほ笑む土屋裕太さんの写真

シンシア~夢に誠実に生きる男~ / 須坂市地域おこし協力隊 北 直樹の『須坂キラビト』vol.8

地域おこし協力隊の北直樹(自称のーす)がお届けする連載「須坂キラビト」は、須坂市に関わるキラリと光る情熱を持つ人をテーマに、活動のきっかけ、これまでの苦労や未来の活動についてもお話を伺います。

第8回目は須坂市立町の「 Pâtisserie cafe sincere(パティスリー カフェ シンシア)」土屋裕太さんを取材しました!

椅子に座ってほほ笑む土屋裕太さんの写真

土屋裕太さん

須坂市出身
日野小学校 → 墨坂中学校 → 長野日大付属高校
高校卒業後にパティシエを目指し長野市内の有名店で実戦経験を積む。
その後、東京へも舞台を変えながら活動し2023年2月に須坂市立町で「Pâtisserie cafe sincere」をオープンする。

水色のガラス窓付きドアから見えるパティスリー カフェ シンシアの内観写真

「Pâtisserie cafe sincere」の店舗入口ドア

 昨年度は7月から駅前施設botaやイベント出店など大活躍でしたね。土屋裕太さんの経歴を2022年の須坂市広報でも読みましたが、苦労されてここまで来たんだなと思いました。見逃した人もいると思うので改めて聞かせてください!

『あっという間の半年でした。振り返れば、結構泥臭い生き方をしてきました(笑)熱中するとなんでも一つのことしか見えなくなってしまうタイプで、中学高校時代も坊主頭で短距離ランナーとして陸上に明け暮れていました。3年生で引退し、情熱を注ぐものが無くなったときに出会ったのがスイーツ作りでした』

 坊主頭の少年がスイーツ作りに目覚めるって面白いです!出会いのきっかけは?

『もともと勉強が嫌いで大学に行くつもりはありませんでした(笑)就職するのに何か自分に出来る事あるかな…と考えていた時、そういえば料理を作るのが好きだったなと思い出して、有り余った時間を使って作っていたんです。そんな時、長野市の東急百貨店でスイーツフェスティバルがあって、そこで出会ったスイーツに感動し「これからはスイーツの時代が来るぞ!」と思ってパティシエを目指したのがきっかけでした。昔から単純な性格です(笑)』

 意外でした!もっと小さな頃からスイーツ作りに没頭していると思っていました。

『私の両親も特に料理やスイーツ作りに熱狂的だったわけではなく、どこにでもある家庭だったんです。でも、小さい頃から何でも“好きなようにやりなさい“と言われてきて、パティシエになると言った時も「いいじゃない」と応援してくれました。進学校に行かせてもらいながら自由にさせてもらって、感謝しかないです』

下から撮った土屋裕太さんの写真

 素晴らしい教育方針で、私も参考になります。その後、どのようにしてパティシエを目指しはじめたのでしょうか?

『まずインターネットや本などで調べました。学校の進路相談にも行きましたが、進学校なので期待した答えは返ってきませんでした(笑)ここでまた単純な閃きで、「現場に聞きに行けばいいじゃん!」と思って、坊主頭の高校生が自転車で長野市内のパティシエさんを訪ね回ったんです。どのパティシエさんも忙しいのに、見ず知らずの高校生に丁寧に教えてくれました。そこで私は専門学校よりも“現場で叩き上げ“の方が自分に合っていると思い、そのまま次は就職の相談を持ち掛けました』

 いや、高校生で専門知識もないのに物怖じせずに動けるその行動力が凄い。そこで境遇が似たパティシエさんに出会ったとか?

『私のように高校時代から現場の叩き上げでスタートされたオーナーさんに出会い、坊主頭の勇気が気に入られて、就職させて頂けることになったんです。そこでみっちり基礎から叩き込まれました。考えていた以上に厳しい世界で、毎日怒られて何度も辞めたいと思いましたが、途中で逃げ出すことが嫌いな性格なので「やめてたまるか!」と思って続けました。でも、だんだんと技術をつけていくと仕事が楽しくなってきて、初めて私が作って販売したのがお店の看板商品だった“チーズケーキ”なんです。その頃の基礎は今も身体に染みついていて、感謝しかないです』

 裕太さんでも辞めたいと思ったことがあったんですね。実際にどういうところに苦労されたんでしょうか?

『専門学校に行かなかったので、全く知識が無くて…。当時はまだ“背中を見て育て”という教え方が一般的で、最初は指示される内容すら理解できませんでした。オーナーは本場フランス系の叩き上げだったので、現場では調理器具をフランス語で呼んだり、レシピもフランス語で、全然わからないんです(笑)そこで私は週1回の休みを利用して先輩と他のお店の作品を食べに行ったり、夜は勉強の時間に充てたりしていました』

ショーケースに入った黒色のPOPとモンブランタルトの写真

 それは大学生よりハードかもしれませんし、“業界用語”は本当にどこでも苦労しますよすね。その後も同じお店で学んだのでしょうか?

『そのお店では主に焼き菓子担当で、洋生菓子も学びたかったのでお店を変えて勉強しました。焼き菓子、洋生菓子と作れるようになったところで、自分のお店を持つときに知識の無かった“カフェ”という概念を取り入れてみたいと思うようになったんです。その頃からグリーン(花屋)にも興味があったので、グリーンとカフェが一緒に出来たら面白いなって考えていました』

木製テーブルに置かれた白いカップに入ったコーヒーとモンブランタルト、水色のショップカードの写真

どのケーキも繊細なつくりだ

 発想力がいろいろと突飛で柔軟です(笑)実際に行動に移されたんですか?

『長野県内にはグリーンとカフェが併設された建物が当時無く、関東にはいくつか店舗があることがわかったので上京してまた一から勉強を始めました。実際にスタッフやお店の雰囲気を自分の目でしっかり見て確かめたかったので、いろいろなお店へ何度も足を運びました。ここだ!と決めた都内の花屋カフェで、ホール・キッチン・グリーンなど経験のないことを沢山学ばせてもらいました。実はグリーンとスイーツって共通するところがあって、どっちも“旬“があるんです。旬の素材の使い方を両方から学ばせてもらいました』

 長野ではより四季を感じられるので、面白いかもしれませんね。開業するまでの知識をある程度学んだ裕太さんはその後、長野に戻ります。その後、どんな道のりでしたか?

『グリーン×カフェを長野で最初にやろう!と思って帰ってきたら、居ない間に長野で初めての店舗が出来ていて…人生ってそんな都合良くないですね(笑)開業しようと思って戻ってきたのはいいんですけど、どんな売り出し方がいいか迷っているときに先輩との会話の中で出た“流れのパティシエ”って言葉が頭に強く残ったんです。つまりフリーで働くってことなんですけど、そんな働き方の人は日本にあまり居ないので、面白いなと思い“フリーパティシエ”として働く方法を模索しました』

水色の大きなカップに注がれたリーフラテアートの写真

ラテアートも繊細

 やっぱり突飛で柔軟(笑)フリーで働くにも製造拠点が必要だと思いますが、そのあたりはどう乗り越えたんでしょうか?

『最初は市内のいろいろなお店に「空いてるときにキッチン使わせて!」「商品置かせて!」って営業したんですけど、コロナ渦で見ず知らずの男にお店を貸すほど世の中は甘くありませんでした。坊主頭の成功で調子にのっていたのかもしれません(笑)なかなか営業が上手くいかず悩んでいたところ、中野市のチャレンジショップの話を頂いて、タイトなスケジュールではあったんですけど“チャンスだ!”と思って飛びついて、フリーパティシエとして初めて販売させて頂きました。売上目標も達成出来て、これなら店舗開業も出来る!という自信にもなりました』

 自分の足でまわって営業する、という叩き上げ思想は高校生からずっと変わらないですね!でも、その実直さが作品に出て日々多くのファンを生んでいると思います。

『私も不安な時期が沢山ありました。寝るよりも働いてる方が心が安定する時期があって、夜もずっと働いていました。正直、怖かったんです。それと、心の状態って“味“に出るんです。不安な時は味覚的にどっちつかずになったり、何を作っているのかわからなくなったりするんです。そんな時、雑誌やSNSで頑張っている人たちの活動を”敢えて“見ることで刺激を受けて原動力にしていました。また、ずっと応援してくれる方々の声援も本当に力になって、何とかお店のオープンまで辿り着くことが出来たんです』

 不安で眠れない時に“働く”という発想がすごい!他にも普段のストレス発散方法があったら教えて下さい。

『コーヒーが好きで、いろんな種類の豆をどんな風に飲めば美味しいかを探すのが楽しいんです。実は花屋カフェで働いていた時に、趣味で好きだったコーヒーの世界も経験してみたいと思い、Wワークしてコーヒースタンドでバリスタの経験も積んでいました。ラテアートが学びたかったのですが、理由は1.自分で描いてみたかったから2.長野県で出しているお店が当時あまりなかった、ということもあり、地元で出せば話題性になると考えていたんです。趣味もカフェのことばかりでつまらない人間です…(笑)』

調理場でコーヒーを淹れる土屋裕太さんの写真

バリスタとしての一面も

 いえ、趣味が仕事になっているのがストレス発散に直接繋がっているのかもしれません。そんな風に働くことは私も起業に向けての参考になります。そんな裕太さんは2023年2月に立町でお店オープンされますが、お店の名前とコンセプトを改めて教えて下さい!

『Pâtisserie cafe sincere (パティスリー カフェ シンシア) と言います。sincereとは英語で「誠実な〜 」 「偽りのない〜」などの意味で、使う食材に対してはもちろん、自分に関わる全ての人やモノに正直に向き合う!!という自身の宣誓の意味合いも込めて選びました。
お店のコンセプトは私の“生き様“です。スイーツ×バリスタ“を1人で出来るというところも見どころで”飲みたいコーヒーに合わせたスイーツ“、”食べたいスイーツに合わせたコーヒー“が提供できるお店にしたいと考えています。他には月1回の限定ランチ、夜しか来れない人のために夜カフェも考えています。食品廃棄もこの業界では問題になっているので、積極的に取り組んでいきたいですね。地産地消にも力を入れて、古くからの付き合いの地元農家さん、下積み時代にお世話になった業者さん、豆の仕入れはバリスタ仲間。今まで関わった人が提携していて、私を成長させてくれた全ての人や須坂という土地に恩返しが出来るお店にしたいんです』

店内のカウンターのフレームに入れて飾られているショップカードと平積みされたショップカードの写真

 生き様が開業に結びつくあたりが “土屋裕太”という人間性の表れです。拠点も出来たので”フリー“パティシエは卒業ですか?(笑)

『確かに“フリー”ではなくなりますが、その形態は残しておきたいなと考えていて、お店にこだわらず地域を盛り上げる活動をしていきたいと思っています。拠点が出来たのは精神的にも大きいですね』

 最後に、今後の夢は?
『いつかこのお店に坊主頭の高校生が“パティシエになりたいです!”って入って来たら面白いですよね(笑)それはもちろん大歓迎だし、私を育ててくれた人たちのような業界全体を考えた愛のある指導が出来ればと思っています。私自身もこれからも夢に向かってピュアな気持ちで走っていきたいです』

 “土屋裕太”の生き様、本当にカッコいいです!オープン待ちきれません…。長い時間インタビューありがとうございました!!

(注意)こちらの記事はオープン前の12月に取材し、のーすもオープニングのお手伝いで参戦しました!!

パティスリー カフェ シンシアの店舗前で撮った男女4名の写真

ショップ情報

「Pâtisserie cafe sincere」

のーすレコメンド!

ショーケースに入ったショートケーキの写真

クリームも重くない、全年齢層が喜ぶショートケーキ!

のーすレポート

陸上部としてトラックを走り抜けてきたように、この15年を走り続けた土屋裕太さん。インタビューでも話す言葉1つ1つを慎重に選び、スイーツ作りと同様に“繊細さ“を大切にする人だと感じた。初めて出会った時から誰に対しても低姿勢で、偉ぶることもない人だった。でも、目の奥にはいつも強い信念と情熱を感じ、モノづくりでも誰でもない“土屋裕太”を大切にしている。このインタビューを書くにあたり“誠実な”裕太さんをしっかりと伝えられるか、不安になった。“誠実さ”は文章で表すのではなく、その人から溢れ出るオーラと相手の主観で感じ取るものだからだ。
そんなメンタル的にも強く見える裕太さんも、時々見せる“猪突猛進”なところがまた人間らしく、ファンが増えていく理由だと感じた。常に不安だったという若い自分の時間をしっかり夢への“貯金”として投資し続け、歳月を経て夢を叶えたことに充実感が溢れて見えた。
常に自分の“マイルール”を作り、働く場所や動き方を考えてきたからこそ失敗しても誰のせいにもせず、その足でまた進んでいけるのだろう。
裕太さんはインタビュー中も「まだスタートラインにも立っていません」と言っていた。
この先のゴールは一体どこになるのか。どこまで走り続けるのか楽しみで仕方ない。

この記事を書いた人

北 直樹 (自称のーす)
1986年7月3日 石川県金沢市生まれ
2022年8月神奈川県川崎市より須坂市に移住し妻と二人暮らし
現在、須坂市地域おこし協力隊として活動中

  • 趣味:レザークラフト、野球、DIYなど
  • 好きな歌手:吉川晃司、氷室京介
  • 主な活動:空き家バンク、信州芋煮会

夢は須坂市の特産品で6次産業の企画・開発・営業で起業すること

野外で作業する北直樹さんの写真

この記事に関するお問い合わせ先

総務部 政策推進課
所在地:〒382-8511 長野県須坂市大字須坂1528番地の1
電話番号:026-248-9017 ファックス:026-246-0750
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